医学的診断は、患者の訴え、医師による診療所見、検査結果の3つの情報の総合的判断による意思決定です。その中でも最も客観的な情報を提供するのが臨床検査といえます。
そのため通常、外来診療を受ける場合に検体採取し得られた検査結果とともに診療を受けることが当たり前になっています。
このように臨床検査は健康管理ならびに医療に不可欠のものであって常に正しい結果が得られることが期待されています。誤った臨床検査結果は誤診となり、または診断の遅れにつながり、その結果治療方針の決定の遅れ、さらに患者に重大な影響をもたらします。正しい診断に役立つためには、それらの検査情報が信頼できるものでなければなりません。しかし臨床検査はさまざまな機器と試薬を使って行っています。そのため検査にかかわるすべての段階においてある程度の誤差、間違いが避けられません。
この高い客観性と信頼性が長期にわたって維持するためには継続的な努力が必要とされます。そのために精度管理が欠かせないものなのです。
この精度管理の発端は、日本の工業界に米国のデミング博士によって紹介された品質管理から始まりました。工業界ではquality control(QC)を”品質管理”と呼んでいました。
その後、世界へと発展したQC活動、企業ではデミング賞を取るためのQCサークルが盛んになり、結果日本の品質の向上に寄与したとも考えられます。
さて、精度管理の由来については今となってはわかりませんが、1963年頃に臨床検査とくに臨床化学分野ではquality control(QC)に代わって”精度管理”という言葉が使われ始めました。
品物の管理が品質管理、分析工程の管理が精度管理と分けられ、その後他の分析分野でもこの精度管理という用語が使われていることから定着しているようです。
しかし、臨床検査分野でも、一部専門家の間で”精度管理”という言葉に違和感をもっており、他の工業界との整合性から”質管理”という言葉も提案されています。
この良質の臨床検査結果を提供する努力は、臨床検査技術の進歩と社会的ニーズの変化によって、精度管理(QC)から精度保障(quality assurance;QA)へと発展し、さらに精度マネジメント(quality management;QM)へと拡大されてきました。現在では臨床検査に関する各種のISOが紹介されています。患者のための精度管理をモットーに信頼のある検査情報に心掛けなければなりません。
参考資料・文献
1)濱崎直孝、高木康編集,臨床検査の正しい仕方-検体採取から測定まで-、宇宙堂八木書店
2)日本臨床衛生検査技師会,臨床検査精度管理教本、近代出版,1998
3)国際試薬,QAP NEWSQAP NEWS 1~52:/e、国際試薬
4)吉野二男,精度管理のすすめ、国際試薬
5)日本医師会,わが国の臨床検査精度管理―30年の歩み―、日本医師会,1998
文責:井野邦英 アキュプレック